1. クウェートのPCT加入と現状について
中東ペルシャ湾岸のクウェート(KW / State of Kuwait)は特許協力条約(PCT)への加入書を2016年6月9日にWIPOに寄託し、2016年9月9日にPCTへの加入が発効します。クウェートは149番目のPCT締約国となります。
※ クウェートについて(外務省HPにリンク)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/kuwait/index.html
これにより、2016年9月9日以降に出願された国際出願は自動的にクウェートの指定を含み、当該国際出願の優先日から30月以内にクウェートの国内段階に移行すれば、クウェートの特許を取得できることになります。
しかし、現地代理人からの情報によると、クウェートはPCT加入手続よりも前に特許法を改正し、自国が加盟している湾岸協力理事会(GCC)の特許のみを認めることとして、2016年4月4日から自国の特許出願の受付を停止し、クウェートで特許取得を希望する場合は広域特許のGCC特許を取得するよう告知したとのことです。
ただしGCC特許は現時点では広域特許としてPCTで指定することが認められていないため、国際出願によってGCC特許を取得することはできません。クウェートは新たな特許出願の受付を停止したという状況では、国際出願でクウェートを指定して国内段階に移行しても特許を取得することができないという混乱を招きかねない状況になっているように思われます。
この点についてWIPOに問い合わせたところ、現在WIPOはクウェート特許庁及びGCC特許庁と協議して解決策を探っているとの回答がありました。
解決策としては以下の2案が考えられます。
① 国内段階に移行した国際出願をクウェート特許庁が国内出願として受け入れるよう再度特許法を改正する。
② GCC特許がPCTの広域特許として認められるよう必要な手続きをとる。
なお、クウェートのPCT加入が発効する2016年9月9日に優先権を主張して国際出願した場合、当該国際出願がクウェートの国内段階に移行する期限は早くても2018年3月9日となるため、それまでにクウェートを指定した国際出願がクウェートの国内段階に移行できるようになれば問題は解決します。
一方、GCC特許がPCTの広域特許として認められるようにならない限り、国際出願でGCC特許は指定できないことになります。
今後の推移を見守っていく必要があります。
2. ジブチのPCT加入について
アフリカ東北部の国ジブチ(DJ / Republic of Djibouti)は、2016年6月23日にPCTへの加入書をWIPOに寄託し、2016年9月23日にPCT加入が発効します。
※ ジブチについて(外務省HPにリンク)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/djibouti/
これにより、2016年9月23日以降の国際出願は自動的にジブチの指定を含み、当該国際出願の優先日から30月以内にジブチの国内段階に移行すれば、ジブチの特許を取得できることになります。
ジブチの加入によりPCTの締約国は150となります。
以上
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〔参考〕
GCC特許について
1. GCCとは
GCCとは湾岸協力理事会*(GULF COOPERATION COUNCIL)の略称で、1981年に、ペルシャ湾の西岸に位置するアラブ産油国間の連携及び政治的、経済的、社会的協力を促進させるために設立されました。
構成国は次の6ヶ国です。
(1) バーレーン(BH / Kingdom of Bahrain)
(2) クウェート(KW / State of Kuwait)
(3) オマーン(OM / Sultanate of Oman)
(4) カタール(QA / State of Qatar)
(5) サウジアラビア(SA / Kingdom of Saudi Arabia)
(6) アラブ首長国連邦(AE / United Arab Emirates < UAE>)
※ GCCについて(外務省HPにリンク)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/page23_000547.html
*GCCは、一般には「湾岸協力会議」と訳されていますが、本稿では外務省の訳語に従い「湾岸協力理事会」と称しています。
2. GCCの特許制度
GCCは統一特許制度を採択しており、この制度に基づいてGCC特許庁がサウジアラビアのリヤドに設立され、1998年に業務が開始されました。GCC特許庁に出願をすることにより全6ヶ国で有効なGCC特許が取得可能です。
・保護対象は特許に限られ、実用新案と意匠は対象とされていません。
・出願はアラビア語により行いますが、明細書等の英訳の添付が必要です。
・審査請求制度はありませんが、別途、審査手数料の納付が必要です。
・新規性・進歩性・産業上利用性の実体的特許要件が審査されますが、実際にはオーストリア等の特許庁に審査が委託されています。
・意に反する公知は1年、博覧会等による公知は6月のグレースピリオドが認められています。
・出願公開制度はありませんが、特許付与公告後の異議制度が設けられています。
・拒絶決定に対する審判請求も可能です。
・存続期間は出願日から20年です。存続期間延長制度はありません。
なお、商標に関しては、GCC統一商標法も制定されていますが、現状では一部の加盟国のみの採用にとどまっているため、各国で権利取得をせざるを得ない状況です。
3.GCCメンバー国の特許関連条約への加入状況
GCC特許は広域特許であり、パリルートによる出願は可能ですが、クウェートがPCTに加入していなかったため、PCTにおいて広域特許として指定が認められず、国際出願によってGCC特許を取得することはできません。
しかし、今回クウェートがPCTに加入したことにより、GCC特許がPCT第45条で規定する広域特許として認められる環境が整いました。
2016年9月9日にクウェートのPCT加入が発効すれば、GCC加盟6ヶ国がすべてパリ条約、PCT及びWTOのメンバー国になります。GCC特許が広域特許として認められることになれば、これらの国でPCTを利用した簡便な手続によって特許取得が可能になることが期待されます。
以上